体臭にまつわるエピソード(その16)
(※とある女性の手記です)
彼氏(当時)が、しばしば変な動作をした。
買い物をしている最中でも、街中を歩いている時でも、唐突にその動作をやるのだった。
その動作・・・言葉にすると分かりづらい・・・というか、どうやって説明したらいいのか皆目見当がつかない。
それでも無理矢理言葉での説明を試みるならば・・・。
立ち上がった状態で、膝を軽く曲げたり伸ばしたりしながら、体を上下させタイミングを見計らう。鼻から息を少しずつ吐き出しながら、その時を待っている感じだ。そしてその息を吐き尽くした頃、おもむろに、いったんかがむように膝を少し大きめに曲げ、お尻を軽く落としたと思ったら、次の瞬間、顔を上に向けて一気に曲げた膝を伸ばす。その時、ジャンプするには至らないが、半ば背伸びするくらいに伸び上がる感じ。同時に、鼻から一気に息を吸い込む。その後、顔を正面に向け、吸い込んだ息を吐き出すと共に、普通の体勢に戻って一連の動作が終わる。
まだ、ある。
同じく立ち上がった状態で、目を閉じながら、体を前後させタイミングを見計らう。やはり鼻から息を少しずつ吐き出しながら、何やら瞑想にふけるような仕草で、力をため込んでいる感じだ。その後、カッと目を見開いたかと思ったら、軽く一歩を踏み出し、すばやく振り返って(回れ右をするような形で)首を伸ばし、最初に居た場所に顔だけ突っ込むような感じ。そしてやはり同時に、鼻から一気に息を吸い込む。その後、首を戻し、吸い込んだ息を吐き出すと共に、普通の体勢に戻って一連の動作が終わる。
お分かりいただけるだろうか。相当、分かりづらいとは思うのだが・・・。
それにしても、いったいこれは、何なのか。
冒頭で、「(当時)」とわざわざ記述した通り、今はその彼とは別れている。そして、私の中でその別離は、これらの動作の説明を彼から聞き出した時から、既に始まってしまっていた。
驚くべきその、動作の説明とは。
前者は、「自分の頭のニオイを嗅いでいる」んだそうだ。
後者は、「自分の体臭を嗅いでいる」んだそうだ。
「これやるとさ、ぷわ〜んって自分のニオイが残ってて、分かる時あるのよ。あるでしょ?ない?あるよね?みんなあるよね?」
ない。断じて、ない。そもそも、そんな動作、あんた以外にやらない。決して、やらない。
それからほどなくして、私は彼に別れを告げた。