体臭にまつわるエピソード(その18)
(※とある女性の手記です)
彼の体臭を意識するようになったのは、付き合い始めて3ヶ月が経過した頃からだった。
ムワッとくる臭さではない。生乾きの洗濯物のような、どちらかというと尖った感じの(ニオイに対して尖ったという表現はそぐわないが、ニュアンスは分かっていただけるだろうか)、すっぱいような、ツンと鼻を突いてくるようなニオイである。
最初はもちろん、彼の服から臭っているものと思い、「洗濯物って部屋干ししてるの?」などとトンチンカンな質問をしていたのだが、それなりに順調にお付き合いが進んでいくことで、そのニオイが彼自身の体から発せられていることがよく分かったのだ(どういう過程でそれが分かったのかを説明するのは、これくらいの表現に留めることで勘弁してほしい)。そして、耐えられないというほどではないのだが、だんだんと改善してほしいという気持ちが強くなっていった。
私は意外と、何でもストレートに伝えないと気が済まないほうである。空気を読むとか、オブラートに包んでモノを言うとか、そういうのは大嫌いなタチだ。それ故、そこをポジティブに捉えて仲良くしてくれる友達もそれなりにいるものの、絶対的に敵のほうが多いような気がする。
ただ、そんな私でも、この件だけは非常に躊躇した。随分と長い間、もじもじと女々しく一人悩んだ。
「なんかあなたって、生乾きの洗濯物みたいなニオイするよねー。」
とか
「あなた体臭があるから、改善してほしいんだけど。」
とか
「あなたクサい。」
とか、まぁいつもの私であれば、これくらいのストレートさで伝えてしまうんだけど。
そして、あれやこれやと悩む中で編み出した、私の伝え方。
「あれ?なんか・・・?おもしろいニオイがする・・・?あれ??」
と、周囲をクンクンし、首なんか傾げちゃったりしながら、
「あれ?どこ?」
と、大袈裟に鼻息を荒げながら、辺りのそこここでニオイを嗅いでいるフリをし。
最後、彼に顔を近づけて(というかほとんど胸に顔を埋めて)、クンクンしながら、
「あ・・・。」
と、ついに見つけたと言わんばかりに、つぶやいて終わり。それ以上は、とにかく黙る。
「え?おれ?えっ?」
って、かなり戸惑ってたけど、予想通り、彼もそれ以上は、黙ってくれたのが救いだった。
ここで、あれやこれや問い詰められたら、ちょっと返答に困ってしまうから。まぁそうされない確信はあったのだが。
それ以来、出掛けにシャワーを浴びてくるのか、はたまた別の施策を打っているのか、全くもって不明ではあるのだが(一緒に食事に行けば、選ぶメニューとかで分かるのだが、何となく、食べる物にも気を遣ったりはしてるみたい)、随分と彼の体臭も改善されてきたような気がする。
それにしても、私がここまでストレートに言えなかったことというのはそうそうないので、ちょっと悔しい気持ちもあるのが正直なところ。まぁ私にとってそれだけ彼は傷つけたくない存在というか、好きであることの裏返しというか、つまりはそういうことなんだろうと、自分を納得させてはいるが。